昨年12月の子どもたちの発表会では2才児から5才児、年長組までのそれぞれの自由表現や歌、また楽器演奏やオペレッタをご覧いただきました。発表会の終了後、発表会についてのお話を少しさせて頂きましたが、ここで改めて子どもたちが取り組んだ、演じること、歌うこと、演奏することについて記しておきたいと思います。

　自由表現、それに歌やダンス、楽器演奏、オペレッタは「表現」することの一分野です。幼稚園には小学校の教科別教育の目標を示した学習指導要領とは異なり、幼稚園教育において育みたい資質、能力を子どもの生活する姿からとらえた「領域」という捉え方があります。この「領域」とは、心身の健康に関する「健康」、人とのかかわりに関する「人間関係」、身近な環境とのかかわりに関する「環境」、言葉の獲得に関する「言葉」、感性と表現に関する「表現」の五領域です。そして、この各領域に示す狙いは、幼稚園における生活の全体を通じて、子どもたちが体験を積み重ねる中で相互に関連を持ちながら達成に向かうものとされています。

　その五領域の一つの「表現」は、感じたことや考えたことを自分なりに表現する事を通して、豊かな感性や表現する力を養い、創造性を豊かにすることとされています。発表会で子どもたちが歌い、演奏し、演じたことは、表現することであり、子どもたちにとっては表現遊びであるといえます。表現することは、歌や演奏などの音楽的なものに限らず、話す、絵を描く、詩や文章に著すことなども、すべて表現活動といえます。そして、それは自分はこう思う、こうやりたいという心の動きなのです。この子どもの心の動きは、子どもの自発性や積極性につながっていきます。

　12月の発表会で年少組に「自由表現」がありました。普段の保育活動の中で、子どもたちは動物や風、雲などの自然現象、またバスや電車などを身体を使って表現して遊びます。この子どもたちから出てきた動き(表現)を教師がアレンジし、ストーリーに仕立て出来たものが、年少組の自由表現なのです。ですから動きに統一性が無くても、子どもたちが感じたそれぞれの表現として受け止めることが大切です。年中組、年長組になると、それがオペレッタへとつながっていきます。オペレッタは歌うこと、演じることの面白さがいっぱいに詰まった表現遊びの集大成ともいえるものです。年中組のオペレッタ｢小鳥のはねやさん｣は、東京ゆかり文化幼稚園の藤田妙子先生によるもので、その他にも子どものための優れたオペレッタ数十曲が残されています。年長組のオペレッタ「きつねがのぞいたクリスマス」は、それまでの発表会での生誕劇に代わるものとして私が1994年に作曲し、その年の発表会で演奏したものです。

　また年中組、年長組の楽器演奏。せいしで使用するのはリズム楽器です。メロディ楽器を使用しないのは歌とは異なり、その演奏に客観性はあるのですが、身体から離れたところで音楽を作るので、子どもたち全体で演奏するのには馴染まないと思われるからです。もちろん、家庭で早期教育の一環として楽器を与えることとは別の問題です。

　そして、子どもと歌は切り離すことはできません。歌は言葉の延長ともいうべきもので、子どもたちがよく「～ちゃん、あそぼ～(レドドレ・レドレ)」と日本語のイントネーションに沿った二音旋律で呼びかける姿が見られます。これが歌、そして音楽のスタートともいえます。そういう意味では日本のわらべ唄はもっと見直されても良いと思います。あとは子どもの発達(音の高低感や子どもに無理のないダイナミックレンジとフレージング)に応じた歌が提供できれば良いのです。