オーストラリアの幼稚園では、朝は何時に登園してもよく、子どもたちは勝手に遊び始めます。勝手に遊んでよいのですが、必ず毎朝教師に対して今日は何をして遊びたいのかを告げ、教師はその遊びに対する計画を立てることを子どもたちに求めて１日の活動がスタートします。教師は子どもに直接かかわることはなく、子どもの方からのかかわりを求めます。そして教師は、記録者、評価者として子どもの活動を見守りアドバイスを与えていきます。

　また、あるオーストラリアの家庭にホームステイしていた学生の話ですが、その家庭では子どもは夜７時になったら自分の部屋へ行く、というルールがあったそうです。あるとき、その子どもと学生がうっかり時間を忘れて遊んでいると７時になってしまいました。するとその子どもは食事もしないで自分の部屋へ帰ってしまいました。学生は自分が気が付かずに申し訳ないことをしたと母親に謝ると、その母親は「食事をするのか、遊ぶのを選択するのは子ども自身であるから、あなたが謝る必要はない」といわれたというのです。このようにオーストラリアの幼稚園と家庭では｢ルール意識｣と｢自己選択力｣が子どもの頃から求められていることが理解できます。

　もちろんこれについては、その国の文化、また教育に対する考え方の違いはあるのですが、このことはいま日本の家庭を含めた教育の中で求められているものの一つではないでしょうか。｢ルール意識｣と｢躾(しつけ)｣は、特に家庭では切り離せないものです。そして、その家庭での躾は、子どもたちの｢ルール意識｣として身についていきます。そして｢ルール意識｣が育てば、それは同時に｢自己選択力｣を育てることにもなるのです。それは前出のオーストラリアのホームステイ先の母親の例でも理解できます。

　いま小学校では、人の話を聞くことができない、またじっと席に着いておくことができない子どもが、以前にもまして増加しているそうです。(その中には発達障害をもつ子どもたちの存在が見逃されていることも考えられますが‥)　そしてそれは同時に幼児教育界が克服しなければならない課題でもあります。ただし、それは教師の指示命令により、それに従って黙って話を聞く、じっと座っている子どもたちをつくるという意味ではありません。子どもたちは、それが教師に叱られない方法であることを学習しているだけのことに過ぎません。このように幼児期の子どもたちは、いともたやすく教師の指示に従ってくれるので、指示命令で子どもを行動させているような幼稚園では、一件何の問題もないように見えます。しかし、小学校に進学して子どもが成長し、自我が形成され成長するに従い教師の指示命令にそっぽを向くようになります。

　必要なことは『ルール意識』と『自己選択力』を子ども自身が身につけることです。

幼稚園では、集団や社会的な園生活の中でなぜそれが必要なのかを、子どもたちの｢気づきの世界｣に訴えて育てます。しかし、それを身につけるための一番の学校はやはり家庭です。

家庭での躾をとおして、子どもたちは社会生活の術を学んでいきます。「家庭は品性の一番の学校である」といわれる所以でもあるのです。