２０１９年１２月初旬に中国の武漢でウィルス感染症が発生し、僅か数カ月後には世界的な流行になりました。人類の歴史は、ウィルスなどの感染症との戦いの歴史でもあります。14世紀にはペスト、15世紀には梅毒、17〜18世紀には天然痘、そして近代でも結核やコレラなど、様々な感染症と人類は闘ってきたのです。感染症の正体がわからなかった時代、疫病は天から降って来るものと信じられていました。インフルエンザの語源は、influence、in＝中に、flow=

流れ込んできたもの、という意味です。インフルエンザウィルスは、1929年に豚で、1933年に人で初めて発見されています。

　1918〜1920年に全世界で流行した「スペイン風邪」。感染者は５億人、死者は5000万人にも及んだ末に、ようやく集団免疫を獲得して終息しました。感染源はアメリカ陸軍のファンストン基地で、渡り鳥による媒介で兵士が発症して蔓延したと推定されています。そしてこの感染症はアメリカの各地、そして折しも第一次世界大戦中であったことから、アメリカの軍隊が派遣されたヨーロッパ各地、そして敵国であったドイツ軍にも感染が広がり、結果的に戦争の終結を早めたともいわれています。　スペイン風邪という名称は、戦争当事国の報道統制が行われていたなか、中立国で大戦に参加していなかったスペインで、この感染症被害が報道され始め、国王アルフォンソ１３世が罹患して、その報道が世界中に配信された結果、発生源はスペインであると信じられたことにあります。

　次々と現れる新型コロナの変異ウィルス、当初は最初に変異株が見つかった国や地域を冠した呼び名が使われていましたが、それでは差別や偏見を生むことになるので、2021年５月にWHO（世界保健機構）は、ギリシャ文字を使った呼び名を付けました。現在、イギリス、南アフリカ、ブラジル、インドで見つかった変異株は、アルファ（α）型、ベータ（β）型、ガンマ（γ）型、デルタ（δ）型、と呼ばれています。

　WHOは、感染力が強まったり、ワクチンの効果が下がると見られる変異株を「懸念される変異株（VOC）」に前述の４種と、「注意すべき変異株（VOI）」５種に、ギリシャ文字で名前が割り振りされています。一度VOIに指定された後に除外された3種のウィルスも含めると、既に１２個のギリシャ文字が使われています。現在新たに加わった、いま最も感染拡大が懸念されているオミクロン（ο）株は、ギリシャ語アルファベットの15番目の文字です。残りは、最後のオメガ（ω）までの９文字ですが、残りの文字が尽きたら次は星座の名前が考えられているそうですが、とんでもないことで、ギリシャ文字を使い切らないうちに終息して欲しいものです。

　インフルエンザは罹りやすく、高齢者や持病のある人などで重症化しやすいという場合がありますが、全体でみれば亡くなるリスクは高くないといわれています。天然痘は防御免疫のできるワクチンですから、ワクチンを接種した人は感染しません。しかしインフルエンザワクチンは、感染を完全に防御するのは不可能だそうです。インフルエンザウィルスは、特に野生のカモ類の多くが保菌していて、これを根絶することもまた不可能です。

　私たち人類自身も大量の微生物を保持して生きています。ウィルスや細菌も人と一緒に生きてきたもので、人間の文明や行動の変化によって共に変化してきました。感染症を根絶することは不可能です。この感染症とどう向き合っていくのか、私たち人類はもう一度考えるべき時に来ているのではないでしょうか。