えんちょうのへや |
『時代(とき)の流れ』 |
せいし通信 12月号 |
11月は学年ごとに高良山系に山歩きに出かけました。年少組は、高良山の登山口とは別に吉見岳へ直接登るルートです。山歩きの時間は子どもたちの脚で40分ほどで、さほど長い行程ではないのですが、登りの最後にかなり急な勾配の坂があって、殆どの子どもたちは四つん這いになって登ります。中には泣きながら登る子もいるのですが、教師はできるだけ手を貸さずに、横で子どもたちを励ましながら見守ります。最後に少しだけお尻を押されて、全員登りきりました。山頂でみんなでヤッホー!! お昼のお弁当は格別だったようです。 年中・年長組は、高良山登山口から高良大社を経由して吉見岳へいたるルートを登ります。その道程では、紅葉した赤い柿の葉やハゼの葉、黄色く色づいたイヌビワの葉、そして色々な種類のドングリを拾い集めながら登ります。この恒例の秋の高良山登山は、もう30年ほども続いているでしょうか。今年は9月に気温の低い日が続いたせいか、例年より紅葉が早いようですが、それでもその30年ほど前に比べれば、2〜3週間ほど紅葉の時期が遅くなっています。また登山道の整備が進んで、登山道の周りの木々や下生えはきれいに刈り取られてしまい、以前は山から帰った子どもたちのズボンにはイノコヅチなどの草の実がたくさんついていて、部屋に入る前には、子どもたちにそれを落としてから、といったこともなくなりました。マムシグサの実がいっぱいに詰まった穂を雪のように降らせたり、イノコヅチでヤジロベーを作って遊んだり、冬いちごの真っ赤な実を口に放り込んだり、時にはアケビの実を見つけて子どもたちと少しずつ食べたりということもなくなってしまいました。 整備されるのは登山者の要望もあってのことだとは思いますが、秋の自然を見て、触れて、集めたい子どもたちにとっては、この大人向けの登山道整備は歓迎すべきことではありません。このようなケースはこの30年ほどの間でずいぶん増えました。整備されすぎた公園や子ども向けの施設などもその例です。事故防止や快適な衛生的な環境が求められてのことなのでしょうが、もっと子どもたちの心や体が開放され、その環境そのものに子どもたちが興味や関心をもって、自分の意志や思いや考えをぶつけることができる。そのような環境を望むことは、いまの時代にはもう無理なことなのでしょうか。 昨年のことになりますが、年少組が壁面飾りで蓑虫(ミノムシ)を作っていたときに、副園長がいまは蓑虫の姿を見ないが、蓑虫を見たことがあるのかを若い先生に尋ねたところ、小さい頃に見たことがある記憶があるだけで、見たことがないという答えだったそうです。実は2002年の1月号の巻頭言で「絶滅危惧種」というテーマで書いている中にこの蓑虫が登場しています。それは、この2〜3年、蓑虫をめっきり見なくなったので調べてみると、1990年代に入って南アジアや中国南部原産の「ヤドリバエ」が日本に渡ってきて、それが蓑虫に寄生していった結果、蓑虫が激減し宮崎県などでは県の「絶滅危惧種」に指定された、というくだりです。 現在の子どもたちには、もう蓑虫という言葉は死語になってしまい、今年の年少組の壁面飾りからは蓑虫の姿はなくなってしまいました。 身近にあった秋の風物詩が、人為的にそして自然界でも次第に見られる機会が少なくなっていく、これも時代の流れなのでしょうか。 |
園長 遠山 和良 |
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