身体に比べて大きな頭、少し突き出たおでこ、顔の中心よりやや下にある目。このような身体的特徴をもった赤ちゃんを私たちはかわいいと感じます。また、犬や猫などの多くの哺乳動物も、人間の赤ちゃんと同じように大きな目、大きな頭、小さな体をしているので、人間の赤ちゃんと同様にかわいいと思うのです。

　そして、特に人間の赤ちゃんは｢10カ月の早産」といわれるように、生まれて数時間後には自立して歩き、自分でミルクを飲めるようになる動物とは異なり、親の手厚い庇護がなければ生き延びることさえ不可能です。ですから赤ちゃんにとっては、お世話をしてもらうためには、この「かわいさ」を最大限に前面に出す必要があります。

　この赤ちゃんをかわいいと感じる反応は、人間の本能であると考えられてきました。動物行動学者のコンラット・ローレンツは、人間や動物の赤ちゃんにみられる身体的特徴を「ベビースキーマ」と呼び、人がそのような刺激を受けると相手を守ろうとする行動が自然に生まれてくるとしています。ただし、赤ちゃんはかわいくなるために、そのかわいさを進化させたのではなく、私たち大人の方が赤ちゃんをかわいいと感じるように進化してきたのだそうです。（これも赤ちゃんの戦略？）

　わたしたちが赤ちゃんをかわいいと思うのには理由があります。それは赤ちゃんには、次の世代を生き抜くための遺伝子が詰まっているからです。その大切な遺伝子をもつ赤ちゃんを何年もかけて守り育てるためには、その意欲を起こさせるものが必要です。それがあかちゃんの「かわいさ」なのです。そのかわいさがあるからこそ、私たちは長い時間をかけて育てることができるのです。

　また人間の子どもには、「人間は社会的な動物」であるといわれるように、育てると同時に教えなければならないことが沢山あります。言語の習得に始まり、遊び方や社会生活の送り方など多岐にわたります。このように人間の子どもの成長には長い時間と膨大な手間暇がかかります。

　ところで、子どもの｢かわいさ｣のピークは何歳頃だと思いますか？勿論年齢に関係なく目の前にいる我が子が一番かわいいという回答が正解なのですが、生まれたばかりの赤ちゃんから３歳頃までの子どもの写真を並べて、最もかわいいのはどれかをたずねる調査があり、その結果、選ばれたのは１歳前後の子どもで、生まれたばかりの赤ちゃんは逆に最もかわいくないという結果が出たのです。

　しかし、幼く弱いものを守る本能と、｢かわいい｣ことに相関関係があるのであれば、いちばん保護の必要な、生まれたばかりの赤ちゃんを最もかわいいと思うはずです。それでは、何故１歳前後の子どもが最もかわいいという結果が出たのでしょうか。最近の心理学によると、１歳頃になると大人と遊べるようになるからだという説があります。つまり｢かわいい｣と感じるのは、相手を保護したい、守りたいという気持ちではなく、相手と仲良くしたい、一緒にいたいという気持ちと関連するのだそうです。　いわゆる「かわいさ」については、子どもが成長するにつれて薄れていきます。この｢かわいさ｣の薄れは、子どもたちが親の手から離れていく、巣立ちの近さを表しているともいえるのです。

　自立心が芽生え、親や教師の手を離れて、自分の世界に飛び立とうとしているせいしの子どもたちは｢かわいさ｣が薄れてきているのでしょうか？　いいえ、せいしの子どもたちの｢かわいさ｣は世界一です !!