毎月、子どもたちが楽しみにしている「小さなコンサート」。３月は少し趣向を変えて、サン=サーンスの組曲「動物の謝肉祭」を鑑賞してもらいたいと思います。サン=サーンス(1835～1921)はフランスの作曲家で、この｢動物の謝肉祭｣は、1886年に作曲されました。チェロの美しいメロディが印象的な｢白鳥｣も、この組曲の中に含まれています。

　｢謝肉祭｣とはカーニバル、いわゆるお祭りのことですが、この謝肉祭は｢復活祭(イースター)｣の前に行なわれるキリスト教のお祭りで、現代では仮装やパレードなどでお祝いすることが多く、ブラジル・リオのカーニバルや、イタリア・ベネチアの中世の衣装をまとった仮装パレード、同じくイタリアで領主側と市民側に分かれてオレンジをぶつけ合う「オレンジ祭り」などが有名です。復活祭の前は、飲食を始めとして、生活全般で慎んだ行動を取らなければなりません。そして復活祭前には断食期間がありますので、その断食期間を迎える前にみんなで｢飲んで、食べて、遊ぼうぜ !!｣というものが謝肉祭(カーニバル)になったようです。因みに今年の謝肉祭の期間は、2月16日～2月21日でした。また復活祭は、日曜日を除く40日後の4月9日です。

　この組曲は、チェリストのシャルル･ルブークの催すプライベートな夜会のために作曲されています。組曲の内容が、他の作曲家の曲をパロディにして風刺的に用いていることやプライベートな演奏目的で作曲されたことなどにより、サン=サーンスは死去するまで、この組曲の出版や演奏を禁じていました。ただし純然なオリジナルである「白鳥」の楽譜だけは、生前に出版されています。

　この組曲は全14曲で構成されていて演奏時間は25分程。第１曲の「序奏と獅子王(ライオン)の行進曲」に始まり、第2曲の「雌鶏と雄鶏」、そして亀や象、カンガルー、カッコウ、白鳥などが登場します。また何故か動物とは関係のない「ピアニスト」や「化石」などの名前が付けられた曲も含まれています。

　前段で他の作曲家の曲をパロディにして風刺的に用いていると書きましたが、第4曲の「亀」では、オッフェンバックの「天国と地獄」の旋律がわざとゆっくり演奏されたり、第5曲の「象」ではベルリオーズの「ファウストの劫罰」やメンデルスゾーンの「真夏の夜の夢」、そして、その他の曲でも、ロッシーニの「セビリアの理髪師」からロジーナのアリア、「きらきら星」などのメロディも取り込まれています。また第11曲の「ピアニスト」では、ハノンのピアノ練習曲のような曲をわざと下手に弾くように注釈がつけられているなど、サン=サーンスのユーモアと皮肉屋振りが存分に発揮されています。またこの組曲中、第8曲の「水族館」には、現在ではほとんど使われることが無くなったグラスハーモニカ(原理は濡れたグラスの縁を指でこすると音が出る)という楽器が使われていて幻想的なメロディを響かせます。

｢動物の謝肉祭｣は、オリジナルの室内楽で演奏される場合、楽器はフルート、クラリネット、グラスハーモニカ、シロフォン、ピアノ･2、ヴァイオリン･2、ヴィオラ、チェロ、コントラバスの編成ですが、３月の小さなコンサートでは、ピアノデュオ(連弾)の編曲版で子どもたちには楽しんでもらいたいと思います。