印象派の画家セザンヌは、自然と物のすべての姿は、球体と立方体と円柱・円錐に帰するのであると提唱し、その後の美術が形体の単純化に向かいました。　そういわれてみれば、確かに私たちを取り巻く生活の中でも、鉛筆や食器や家電製品から、家・ビル・車・電車、果てはロケットや宇宙空間に拡がる星々に至るまで、球体や立方体、円柱、円錐などで構成されていることが分かります。

　大人は、例えば三角は単に幾何学的三角としてしか感じませんが、子どもにとって三角は、家の屋根やとんがり帽子。丸は太陽や月であり、風船でありビスケットなど。四角はおもちゃ箱や家、車や電車に感じるのです。このように、子どもにとって一つの形は、様々なものとなって想像され、感じ取られ、また単的な形体で表現されることから始まります。

　せいしでの造形活動の一つに紙工作があります。紙は、ちぎる、丸める、破る、折る、切る、曲げる、絞るなどが容易にできる材料であり、のりや接着テープなどで補助しながら接着できるので、子どもたちの造形遊びの材料として欠かすことができない素材です。

年少組には「紙の二つ折り」という活動があります。これは平面である紙をどうやったら立たせることができるのか、という紙工作の原点の活動なのですが、この二つ折りにすることによって初めて紙は平面から立体へ変化することができます。また、円を二つ折りにすれば、それは小鳥になったり、船になったりと子どもの想像を広げていきます。そしてやがて、円柱、四角柱、円錐、三角錐、四角錐の立体の基本形、カマボコ型や新幹線型などのバリエーションをマスターすると、本格的な造形活動としての紙工作が始まります。

立体的な表現は、平面的な表現とは異なり、特に構想と展開が順序よくうまく嚙み合わなければなりません。物の形は基本形体からの変化によるものが多いのです。子どもたちの造形遊びは、もちろん自主性を尊重することが大切ですが、構成していく立体造形には、どうしても基本形からの変化や順序を経験していかなければなりません。そのスタートが、年少組の「紙の二つ折り」なのです。

　今月、２月の「作品展」の展示では、年少組は円柱、円錐、三角柱の基本形による作品までですが、年中組では２学期になると、この基本形を組み合わせて色々なものを作り出せるようになり、テーマに向かって作品を作ることもできるようになります。そして年長組になると、さらに高度な作品を生み出せるようにもなります。しかし物を作り出すためには、色や形を決め、大きさや組み合わせや、完成までの工程を考えるなどの構成能力や技術が要求されます。ですから、紙工作でできあがった家は、全体の形をどうしようか、屋根の形や色をどうしよう、窓やドアの場所は?という、子どもたちの総合的な創造性の産物なのです。

　幼稚園などでよく取り入られている、廃品を利用した作品作りや遊び。これは色々な廃品を単に組み合わせた“見立て”で終わってしまう可能性があるので、せいしでは取り入れていません。

また、紙に切り線や折り線が示されている一般のプリント教材は、子どもにとっては間違いなく切り、折り曲げ、接着することに終始してしまい、結果は技術や巧緻性の差が現れるだけで、作る過程での創意工夫や創造的な思考は何も育たないことになるので、これもまたやりません。

　このように、一枚の紙から立体を作り出す紙工作の活動は、ただ単に造形による表現活動にとどまるのではなく、子どもの創造性や知性をも育てているのです。