えんちょうのへや |
『炬燵(こたつ)』 |
せいし通信 12月号 |
今年は3月の東日本大震災と、それに伴う原子力発電所事故の影響もあって、企業や家庭においても節電対策が求められています。そのこともあってか今年の冬は電力を使わない石油ストーブなどの暖房器具がとぶように売れている記事を目にします。 現代の生活はエアコンが普及して、部屋中、そして家の中がすべて暖かいという生活も別段珍しいことではなくなりましたが、50年ほど前までは、家の中でも暖かかったのは茶の間の炬燵だけでした。 もちろん炬燵のことですから、部屋中が暖かいわけではなく、炬燵からはみ出た上半身は、断熱の悪い昔の家のことですから、寒いままでチャンチャンコなぞを着込んでいたこと、炬燵の熱源は練炭だったので、半日くらいしか火がもたずに、練炭の火を熾すのは子どもの役目だったことなどを思い出します。 また、私の小さい頃までは電球が主流で、一番大きな電球をつけて明るかったのが茶の間だったこともあり、茶の間は暖かく明るいイメージとして心に残っています。ただ明るいといっても電球の明るさですから、その時代、まださほど普及していなかった蛍光灯の明るさには及びません。おまけに電球は光源が「点」ですから、光と影がより鮮明で、冬の寒い夜にはそれが一層際立って、影に入ると闇の中に溶け込んでしまうようで、昔の子どもは、みんな闇を怖がっていたような気がします。少し時代が進んで、家の中に蛍光灯がついたときには、眩しくない光と蛍光管の光源が広がったせいで、光と影の境目がはっきりしないことに、何となく違和感を覚えたことが記憶に残っています。 家の中で暖かいのは茶の間の炬燵だけですから、寒い日には当然みんなそこに集まってきます。テレビもまだ普及していない時代のことですから、話すことはお互いの今日一日のこと、新聞やラジオのニュースのこと。子どもたちは炬燵に足を突っ込んだまま、寝そべって本を読んだり、宿題をしていたり、暖かい心地よさについウトウト。母親の「もう温まったでしょう。早く寝なさい」の言葉で、あわててもぐりこんだ布団の冷たい感触 ……。 家中が暖かい現代の生活のほうがより快適でしょう。しかし、単に食事の場と化してしまった茶の間(ダイニングルーム)には、家族の交流や団欒、心を通わせあう場所としての機能が失われているようにも思います。食事が終わると、それぞれの部屋に引っ込んで、テレビを見たり好きなことをして過ごす。それは、お互いの個性や趣味を尊重し、大切にして束縛しないこと。そのこととは少し違うような気がします。 今年の冬は節電対策の上でもよい機会です。一度炬燵を引っ張り出して試してみてはいかがでしょう。家中の暖房とテレビと大きな電灯を消して、茶の間を家中で一番明るくて暖かい場所に変えてみるのです。炬燵に入ると、当然みんな向かい合わなければなりません。その中で今日一日にあったこと、ニュースや一つのテーマについて話し合ってみることなど、家族として大きな発見があるかもしれません。その上に、おじいちゃん、おばあちゃんがいればもう最高です。その時代、その土地の様子や風習などを生き生きと話してくれるに違いないからです。これはどんな教科書より、テレビのドキュメント番組より、正確で生きた情報として子どもたちに伝わります。 こんなすばらしい手を逃しておくことはありません。しかもこの手は冬の炬燵の時期にしか通用しないのです。 |
園長 遠山 和良 |
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