「目は口ほどにものを言い」という言葉がありますが、人間は他とのコミュニケーションをとるために、お互いの目を合わせること、つまりアイコンタクトがお互いの存在を認め合うというシグナルになっているそうです。相手が目を合わせようとしない場合は、相手が自分のことを嫌っているのではないか、何か怒っているのではないかと気にかかります。

　魅力的な女性の顔の写真に対して、脳がどのような反応をするのかｆＭＲＹ(機能的磁気共鳴映像法)を用いて調べた実験がありますが、面白いことには色々な女性の写真の中でも、写真の中でこちらを見ている女性に対してだけ、ドパーミン(脳の中での報酬を表わす神経伝達物質)を放出する神経細胞の活動が上がったことが明らかになったというのです。この報酬とは、脳内にあって生きるために必要な水や食べ物、他者とのかかわりなどを好ましいものとして認識するメカニズムのことです。魅力的な女性と目が合うことが脳にとっては報酬になることがわかりますが、この結果はそれを見る人が男性でも女性でも変わらなかったといいますから、相手が魅力的であるということよりも、目が合うこと、つまりアイコンタクトが脳の活動に影響を与える最も重要な要素であることを表しています。

　人間の赤ちゃんは、他の動物の赤ちゃんと比較して、｢10ｶ月の早産｣といわれるほど、まだ母親の胎内にいる方がいいような状態で生まれてきます。生まれたばかりの赤ちゃんにとっては、母親をはじめとする保護者が、いかに自分の世話をしてくれるかが最大の問題になります。新生児は、生後すぐにでも母親が見つめて微笑むと、まだはっきりと目が見えていないにもかかわらず微笑み返すことが知られています。そこにはすでに初期のアイコンタクトが成立しているのです。

　成長の過程において、私たちは他者の視線なしに自我の形成を成し遂げることはできません。自己を維持して育てていくためには、他者から見られること、是認されることを必要とするように人間はできているのです。アイコンタクトを行うこと自体が、他者との関係において脳内の報酬につながるということは、人間のコミュニケーションを考えるうえで重要になります。

　幼稚園で朝の玄関でのあいさつの時に、副園長の末永和子先生が子どもたちに、よく目を見てあいさつしましょうと声をかけている姿が見られます。これはただ形式的に朝の挨拶をするということではなく、和子先生にとっては子どもたちと目が合うことによって、その子の健康や心理状態までも読み取ろうとする意図があり、さあ今日も新しい一日の始まりだね、今日も楽しいこといっぱいだよ、というメッセージが込められています。そして子どもたちにとっては、先生に見つめられている、見守られているという安心感や充足感が与えられ、その日の幼稚園での活動への期待や意欲になったりもしているのです。

　目は単にものを見たり涙を流すためだけにあるのではなく、色々な意志を相手に伝えたりメッセージを発信したり、お互いのコミュニケーションをとるのに有効な手段でもあります。嘘つきの口や作り笑いができる顔とは違って、目だけは絶対に嘘をつけないのだそうです。ですからお父さんお母さんは、口では嫌だといいながら目だけはＯＫサインの子どもや、口で嘘をついても目が泳いでいたりする子どもがいることをよくご存じですよね？