たいちょうのへや |
『科学的な考察力』 |
せいし通信 11月号 |
アメリカ、ニューヨークの公立学校6年生の理科の時間です。 課題は「真水と塩水の入ったそれぞれのコップに、同じ大きさの氷を入れるとどっちが早く溶けるのか?」 先生は「どんな結果になるか、みんなで予想してみよう。これを『仮説』というんだ。それから何故そう予想できるのか、その理由をいってごらん」、子どもたちは口々に色々な意見をいいます。「川の水は凍るけど、海の水は凍らない。だから塩水のほうが早く溶ける」(これはチョット勘違い。今回の問いは、真水の氷を塩水と真水に入れたときの差だから)。「真水と塩水では条件と変数が違うので結果も当然違う」(これはアメリカでよくある屁理屈だそうで、大学生でも使うそうです。ですから、どういう風に違う?何故違う?と問いかけると答えられなくなってしまう)。 「では次に実験をしよう。真水、塩水以外の条件をそろえておく必要があるので、同じ大きさのコップを使おう。そして水の量もその温度も同じ。塩の量も問題になるかも知れないけど、今回の実験ではスプーン一杯にしてみよう」。先生は手際よく実験を進め、生徒たちは先生の手元を見つめています。「さて、次は氷だ」、先生は冷凍庫から氷を取り出します。「大切なことは何?」「同じ大きさの氷を入れることです」「そうだね、他には?」「ストップウォッチを用意すること」「いい意見だね。溶ける時間を計って、後で比べてみよう。ところで同じ大きさの氷はどうやって選ぶ?」「形」「重さ!」。先生は、計量器を取り出して氷をいくつか計って「これとこれが同じ重さだね。じゃあ入れるよ。レディ・ゴー !!」。 みんなの目がいっせいに氷に集中します。真水に入れたほうの氷がみるみるうちに溶けて小さくなっていきます。真水に入れた氷は4分ほどで溶けてなくなりましたが、塩水に入れた氷が溶けきるには10分以上もかかりました。「何故だろう?よく考えてみよう。何か意見がある人は?」子どもたちの手が次々に挙がります。 この真水の氷のほうが早く溶ける理由は、表層で氷が溶け始めると周囲の水の温度が下がります。冷たい水は沈んで、かわりに温かい水が下から上がってきて氷を溶かすのです。これを「対流」といいますが、これに比べて塩水は重いので対流が起こりにくいのです。塩水では、氷が溶けた冷たい水が沈みにくくなり、その分氷が溶けにくくなるというわけです。 課題⇒仮説⇒実験⇒考察(検証)このプロセスを経て、子どもたちの考える力を引き出す素敵な授業ですね。しかし、日本では相変わらず教師から子どもへの一方通行のような知識伝達型の授業が多いように思います。もっと授業のあり方、子どもたちを授業に引き込む工夫があってもよいのではないかと思います。 幼稚園では、教師はできるだけ子どもたちの疑問や好奇心に応えることは勿論ですが、一方的な解答や解決策を示すのではなく、何故そうなるのかを子どもたちに問いかけたり、一緒に考えたりすることにより、子どもの科学的な想像力や考察力を高めていくことを大切にしています。家庭でも、このアメリカの授業を参考に子どもたちの考察力を高めるための工夫ができるのではないでしょうか。 |
理事長 遠山 和良 |
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