たいちょうのへや |
『虫の声』 |
せいし通信 11月号 |
夏の終わりから鳴き始めたコオロギなどの虫たち。「虫の声」という童謡をご存知でしょうか? 「あれ松虫が鳴いている チンチロチンチロチンチロリン。あれ鈴虫も鳴き出した リンリンリンリン
リーンリン。秋の夜長を鳴き通す ああおもしろい虫の声」 以前は鈴虫などは夏祭りの夜店などで売られていて、飼育した鈴虫を幼稚園にもってきてくれる子どもたちもいたのですが、現代のように都市化が進み、特にマンション住まいの子どもたちには、虫の声は身近な存在ではなくなってしまったようです。 それでも、9月に子どもたちと浦山公園に遊びに入った時には、バッタやトンボ取りに夢中になる子どもがいて、昼食時にシートに飛び込んできたコオロギに悲鳴を上げる子もいたのですが、「これはコオロギだから大丈夫だよ」という男の子もいました。 虫の声を愛でる習慣は古代にさかのぼり、万葉集にも「夕月夜 心もしのに 白露の置くこの庭にこおろぎ鳴くも」(夕月夜に心もしっとりとぬれて、露でぬれた庭ではこおろぎが鳴いているなあ)という一首があります。このように日本人なら誰しも耳を傾ける虫の声ですが、この虫の鳴き声を「声」として認識できるのは、世界で日本人とポリネシア人だけだという事実をご存知でしたか? ある学会でキューバを訪れた大学教授が学会の会場の外から聴こえる虫の音に、周囲の人に何という虫が鳴いているのかを尋ねたところ、誰も何も聞こえないというのです。また学会の帰りの静かな夜道でもたくさんの虫が鳴いているのに、同行者は何も聞こえないといいます。この聴覚の違いを生理学的に追及した結果、日本人とポリネシア人、そしてそれ以外の民族では、虫の音を右脳と左脳のどちらの脳で聞いているかの違いが発見されたというのです。 人間の脳は、右脳と左脳に分かれていて、それぞれの処理分野があります。音だけに関していえば右脳は音楽脳とも呼ばれ、音楽や機械音、雑音を処理します。左脳は言語脳とも呼ばれ、人の話す声の理解など、論理的知的な処理を受け持ちます。日本人とポリネシア人は、虫の音を左脳の言語脳で捉えるので、人の声と同様に虫の音を「虫の声」として捉え、西洋人などの他の民族では、虫の音を機械音や雑音と同様に右脳で捉えて処理していたことがわかったのです。ですから虫の音は、西洋人には雑音としての認識しかなく、声としての認識がないのです。 人間の耳から脳への神経構造は、左耳からの情報は右脳へ、右耳からの情報は左脳へと交差状態になっています。簡単な実験として、左右の耳に違うメロディを流してどちらのメロディが聴き取れたかを調べると、常に左耳から聴いたほうがよく認識されるそうです。つまり音楽は左耳⇒右脳が得意だとわかります。同様に違う言葉を左右の耳で聞き取りさせると、右耳⇒左脳がよく認識しているそうです。 この音に関する右脳と左脳の違いは様々な実験の結果、右脳⇒音楽etc.、左脳⇒言語etc.については、日本人も西洋人も共通なのですが、違いが出るのは泣き、笑い声や、虫や動物の鳴き声、波、風、雨の音などを日本人は言語と同様の左脳で聴き、西洋人は音楽や雑音と同じく右脳で聴いていることがわかったのです。この虫の声だけではなく、その他の動物の鳴き声、波、風、雨の音まで言語脳で聴いている日本人には、ありとあらゆる自然物に神が宿るという日本古来の自然観とも合致しています。また犬はワンワン、猫はニャーニャー、小川はサラサラ、雨はザーザーなど自然物はまるで声をもっているようです。そしてこのような擬声語や擬態語が発達しているのも日本語の特徴です。ですから子どもの頃からこうした言葉を聴かされていれば、虫や動物の鳴き声も、自然音もすべて言語の一部として言語脳で処理するということになります。 理論物理学者の湯川英樹博士の言葉「日本人は西欧人が論理的であるのに対し、情緒的であるといわれてきたが、日本人はその違いを活かすべきである。違うがゆえに独創的なものが生まれるのである」 日本の「虫の音に耳を傾ける文化」は、人類全体の文化をより豊かにする独創的なものといえるのではないでしょうか。 |
理事長 遠山 和良 |
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