５月から「小さなコンサート」が始まります。このコンサートの始まりは、28年前に声楽家の川口雪子先生とピアニストの片岡和代先生のお二人を音楽専任講師としてお迎えしてスタートしたものです。残念なことに18年前に川口先生が49歳という若さで亡くなられてからは、川口先生には及ばないものの私がその後を継いで、このコンサートが続いています。コンサートでは、歌やピアノ演奏のほかに、現在までにフルートやマリンバやヴァイオリンの演奏、また弦楽アンサンブルや管楽アンサンブル、日本合唱協会による合唱演奏などを子どもたちに聴いてもらいました。

　音楽的な表現方法としては、歌やリズム楽器、メロディ楽器によるものがありますが、メロディ楽器は、楽器を媒体として音楽を作らなければならないので、音楽に客観性はありますが、幼稚園の活動として幼児期の子どもたちには不向きです。（もちろん個人的なレッスンは別です）その点、歌は自分の身体自体が楽器ですから、音楽の与え方さえ間違わなければ、子どもたちにとって一番よい音楽の表現法といえます。

　人類の音楽の始まりは『歌う』ことからです。言葉が音楽化されたものが歌ですから、人類が言葉を獲得してからは、世界のどの民族にも歌が存在します。ただどのような歌だったのかを再現することはできません。11世紀初めにグィード・ダレッツォにより四線を用いた記譜法の原型が考案され、17世紀になって現在と同じ五線譜が広まって初めて音楽が記録され、また再現できるようになりました。ですから私たちの耳に届く音楽としては、その歴史はたかだか400年という短いものでしかありません。

　アルタミラ洞窟の壁画が、美術的表現の始まりだと仮定すれば、それは18000年前のこと。メソポタミアやエジプトで象形文字や粘土板にヒエログリフで記録されたものが文学的表現の原型だとすれば、それは5000年以上も前のことです。もっとも音楽は記録には残っていないものの、3000年ほど前の大理石像には、フルートやハープのような楽器を演奏しているものが存在します。また歌については、シリアで出土した3400年ほど前の粘土板にフリル語で書かれたものが世界最古の歌ではないかとされています。それはどのような歌だったのでしょうか。

　人間の大人の声域は、二オクターブから三オクターブが限度です。子どもの声域はさらに狭く大人の半分ほどしかありません。また音の高低感も完全に備わっているわけではありません。そして一息で歌うことのできるフレーズも短いので、子どもたちに与えられる歌は、それらを理解したものでなければなりません。

　子どもたちがみんなで歌を歌うには、子どもたちが意識するとしないに関わらず、テンポを揃え、声のピッチを揃え、ブレスを揃えないと一つの歌として成立しません。歌を歌うということは、子どもたちがその音楽に共感し、その歌をみんなで創り上げる協同作業ともいえるのです。幼稚園の間に子どもたちにはたくさんの歌を歌ってもらいたいと思います。

　ハンガリーの音楽家コダーイ・ゾルタン(1882〜1967)〈作曲家・音楽教育学者であり、コダーイシステムという音楽教育法の考案者〉はいいます。

『人間の喉は人類が作り出した最高の楽器である』