新入園児も入園から半月が過ぎて、幼稚園の様子や、また一日生活の流れもほぼ身に付いて落ち着いた生活が送れるようになりました。一段落したところで、これからが本当の幼稚園生活のスタートです。子どもの性格的な部分は、もちろん両親から受け継いだものが大きいのですが、子どもたちはいままでに育ってきた環境によって、実にさまざまな思考や行動パターンがあります。

　新園児でよく目にするのは、自分で遊びたい積み木やブロックを、遊んでいる他の子から黙って取り上げてしまう光景が見られますが、これは言語が未発達で集団生活が未経験の子どもが自分の欲求を満たそうとするときには、この方法しか選択の余地がないのです。しかし時には、言葉巧みに「このブロックを貸してくれない？」「そうしたらこんなものを作って君と遊ぶことができる」「だから君はブロックをぼくに貸さなきゃいけないんだ」と三段論法で迫る子どももいて、それはそれで、それぞれの子どもが育ってきた背景が想像されて面白いものです。

　子どもたちの行動をパターンに分類するとどうなるのでしょうか。教師の指示があるまでは行動を起こそうとしない子がいます。かと思うと、思いつきや目の前にあるものだけにパッと飛びついてしまう子がいます。自分で行動を始めても、これでいいのかと何度も確認にくる子がいます。言われたことには反応はするけれども、自分からはやろうとしない子もいます。そして、教師のいうことをよく聞き分けて、教師の思うとおりにやってくれる、いわゆる「いい子」もいます。

　親が先回りをして子どもの要求を満たしてしまい、考えたり行動する必要がなかった子ども。失敗することは叱責されることと意識付けされてしまった子ども。親が決めたレールの上を歩くことを要求されていた子ども。「子どもは自由に」という方針で、半ば放任に近い状態で育った子ども。これらの子どもは前述のパターンに近い子どもたちです。そしていわゆる「いい子」も時に問題をはらんでいます。親から見ても教師から見ても全く問題がないように見えるからです。しかし「いい子」に見られるために、子ども自身が「いい子」を演じている場合さえもあるからです。そうすると、いつかは本来の自分自身とのギャップ、期待されていることの重圧に耐えかねて、その子の心が暴走を始めてしまう可能性もあるのです。

　このように多種多様な環境で育ってきた子どもたちが、新しい一年間の生活をスタートさせました。この幼稚園生活（教育）の中で、子どもたちは日々変化と進化と成長を続け、ひと時も目を離すことができません。幼稚園では羊のように従順でおとなしく、親や教師にとって聞き分けのよい「いい子」を求めているわけでも、また育てようとしているわけでもありません。

　幼稚園教育は、子どもたちが育つための最良の教育的な環境を用意して、その環境に子どもたちが働きかけて自らを成長させていくことを目標にしています。そして、その過程で得た経験や知識をもとにして、さらに次の思考や行動を自らの意志で決定し実行していくことができる。子どもたちには、そのような「いい子」に育って欲しいと私は思います。