たいちょうのへや |
『やさしく・つよい心』 |
せいし通信 6月号 |
6月、肌に感じる少し湿った空気に、梅雨が近いことが感じられます。 新年度がスタートして2ヶ月、新入園の子どもたちも、それぞれ自分の居場所、好きな遊びを見つけてのびのびと遊びはじめました。 幼児期の子どもは、社会性が未発達で、自分中心の世界をもっています。それが幼稚園などの集団生活の中で、徐々に周りの世界に目を向け、自分以外の人間の考えや行動を学んでいきます。そして、そこには子どもたちの成長や発達を見守り、手助けをする私たち教師がいます。社会性が未発達な部分で、子どもたちの意思の疎通がうまくいかないことがあっても、幼稚園では“いじめ”などの問題は生じるはずもない、と思っていた私は、教育関係紙のある記事を読んで愕然としました。それは、ある教育学者の一文なのですが、その人は実際に保育者として、幼稚園勤務をしていましたが、その時の保育の実践は、いじめの根っこを育てていたのだ、と書かれていたのです。 幼稚園では、教師として遊び仲間に入れない子に「仲間に入りたいなら黙っていたらだめ“入れて”って言いなさい」「あなたが“入れて”って言えば、みんなきっと“いいよ”って言うよ」と熱心に指導してきた。クラスの誰もが「入れて・いいよ」を使えるようになった、と自分の保育実践に自信をもった。 しかし、その保育はいじめの心だった。保育者としていじめをせよ、と教えてきた。 それは、遊びに入りたければ「入れて」と言えという指導は、それをあらわさない限り、入れなくてよいということを教える保育だった。「あの子は、さっきから自分のほうを見ている。でもこっちから声を掛ける必要はないな。だってあの子は“入れて”って言わないもの」と思うように仕向けてきた。人の気持ちは汲みとらなくていい、表さない気持ちは押し量らなくていい、そういう子を育ててきた、という一文です。 何もそこまで、そんな事はない、と思われる方もあるかもしれませんが、やわらかい幼児期の心は、善いものも悪いものも、そのすべてを吸収してしまいます。そしてそれは、将来の生活の精神的な基盤にもなるのです。幼児期の子どもを育てること、教えることの難しさ、大切さを改めて実感したことでした。 過去に、いじめにあって自殺してしまった中学生がいました。 “葬式ごっこ”までされていても、周囲の者は「彼はちょっといやな顔をしたみたいだけど、別に“いやだ”ともいわなかったし、黙っていたので気にしているとは思わなかった」と言うのです。 これは、まさに「人の気持ちは汲みとらなくていい、表さない気持ちは推し量らなくていい」として育ってしまった子どもたちの心がもたらしたものが原因の一端にある、といえるのかも知れません。 この事件の“種子”が、幼稚園、幼児教育の現場にあってはなりません。相手のことを思いやることのできる「やさしい・つよい心」の子どもたちを育てましょう。 |
理事長 遠山 和良 |
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