えんちょうのへや |
『無患子(ムクロジ)』 |
せいし通信 5月号 |
進級、新入園から一月がたち、時折母を求めて泣く声が聞こえてくることがあるものの、子どもたちも落ち着いた園生活が送れるようになってきました。四月の親子遠足は、予定していた日が雨模様で一日順延して、次の日は少し肌寒い日でしたが無事に終えることができました。この親子遠足では、子どもたちはお母さんや先生たちと一緒に手遊びをしたり、お弁当を食べたり、またお母さん同士の交流も生まれて充実した一日だったように思います。 お昼のあとは、子どもたちは文化センターの広い園内の芝の上を転げ回ったり、池の鯉やアヒルに餌を与えたり思い思いに楽しく遊んでいたようです。昼食を摂った広場には一本のムクロジの木がありました。実がたわわについて、その実がたくさん落ちています。子どもたちの自然物を使った工作に使えると思ったので、実を拾い集めていると、興味をもった子どもたちが集まってきます。「その実はなにの実?」「拾ってどうするの?」「食べられるの?」と質問の山。 このムクロジの果実は、半透明の黄褐色の果皮に包まれていて、実の中には黒くて堅い種子があって、振るとカラカラと音がします。この堅い種子は昔は数珠に利用され、「羽根つきの玉」にもなっています。また果皮には「サポニン」が多く含まれていて、水に溶かすと泡立ち、古くから洗剤として利用され、現在でも東南アジアのある地方では使われているそうです。などという説明は子どもたちには難しいので、食べられないこと(黒い種子は本当は焙って食べるとおいしいという説も)、黒くて堅い実は磨くと光ってきれいなことだけを伝えて一緒に拾い集めると、ものの10分ほどで小さな袋一杯になりました。 あるお母さんが、その様子を見ていて「それは何の実ですか」と尋ねられるので、先程の説明をすると、子どもに向かって「石鹸にもなるんだって、おうちに帰ってやってみようか」とムクロジの実を持ち帰られました。私がとても嬉しかったのは、面白そうだね、やってみようかと子どもと共感し、その興味を引き出されたことです。これはまさに幼稚園で教師が子どもたちにやっていることと同じことなのです。子どもたちに興味をもたせ、自らやってみようという意欲を引き出し、その結果や成果を子ども自身の経験や知識として蓄えていくこと。極論を言えば、これが幼児教育の全てであるといっても過言ではないのです。幼児期には、こうして親や教師が寄り添い、子どもたちの思いを共有し、その思いに共感してやることが大切なのです。 ムクロジは、日本では本州以西に見られる落葉高木で6月頃に花を咲かせ、秋に実をつけます。寺社の境内や庭木としてもよく見られる木です。この無患子(ムクロジ)の名前の由来には「子どもが患うことが無いように」、という無病息災の意味があるのだそうです。 何だか幼稚園にもピッタリの木ですね。 さて、ムクロジの実を持ち帰った親子は、そのムクロジの実をもとに、その後どのようなことを話し合ったのでしょうか。 一寸だけ気になります。 |
園長 遠山 和良 |
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