えんちょうのへや |
『学校週五日制』 |
せいし通信 6月号 |
詰め込み教育が問題になると、ゆとり教育。それが批判されると、また詰め込み教育。 いま学校週五日制の見直しが始まっています。文部科学省では、土曜日も授業をする「学校週六日制」の導入が検討され始めました。「学校週五日制」については、1992年9月から、毎月第二土曜日を休みにすることで実験的に五日制が導入され、1995年から土曜休みが月二回となり、2004年から「完全学校週五日制」が実施されました。 なぜ週五日制が導入されたのか、については二つの理由があります。一つは詰め込み教育に対する反省です。高度経済成長時代、先進国に追いつこうと学校で教える内容は高度になりました。その結果、授業についていけない「落ちこぼれ」(いやな言葉ですが‥‥)が大量に出て問題になりました。また校内暴力も大きな社会問題になりました。こうした問題の原因の一つが、詰め込み教育による弊害だということになり、『ゆとり』を求める声が高まったのです。 もう一つの理由は労働時間の短縮です。当時の日本の驚異的な経済成長を押さえるねらいもあって、長時間労働に対してOECD(経済協力開発機構)などから、労働時間を短縮するよう圧力をかけられたのです。これを受けて1970年から80年代にかけて、官公庁で週休二日制が実施されるようになり、やがて学校週五日制も導入されることになったのです。 土曜日が完全に休みになると、当然授業時間数も少なくなります。これにあわせて、当時の文部省は教える内容の「精選」を実施します。つまり教える内容の削減です。ところが今度はこれでは学力が低下するという批判が出て、教える内容の見直しが始まりました。学力低下の論議が始まったのは、2000年に「分数ができない大学生」という本が出版されて、最近の大学生の学力が低下しているという声が高くなってきたのです。この数学ができない大学生が出現したのは、大学の入試科目が減ってしまったのが大きな要因らしいのですが、このときは、まだゆとり教育は実施されておらず、ゆとり教育とは関係がないのですが、こんな状態でゆとり教育を導入しても大丈夫なのかという議論になったのです。また2003年に実施されたPISA(学習到達度調査)では、日本の順位が前回に比べて下がったことがこの論議に拍車をかけましたが、順位が下がったのは、前回よりも参加国が増えたことが大きな原因でしたし、2000年から導入された「ゆとり教育」の効果が出る前の話にもかかわらず、学力低下だけが独り歩きを始めたのです。 2011年改定の学習指導要領では、ゆとり教育で削減された内容が一部復活して教える内容が増えました。それによって授業時間も小学校6年間で5645時間(1時間は45分1コマ)と前回(2002年改定)より278時間増えたのです。こうなると、週五日では教えるほうも勉強するほうもゆとりがなくなって、一日に6時間、7時間という長時間の授業が行なわれることが常態化しました。そこで土曜日も授業をしようという流れが始まったのです。文部科学省が週五日制を導入した時には、そのねらいを『学校、家庭、地域社会の役割を明確にし、それぞれが協力して豊かな社会体験や自然体験などの様々な機会を子どもたちに提供する』そしてその上で、自然体験などが豊富な子どもほど、道徳観や正義感が身についているという調査結果も出ている、と説明していたのです。 1996年に文部省の中央教育審議会が『21世紀を展望したわが国の教育のあり方について』という諮問に対する第1次答申の中で「これからの子どもたちに必要となるのは、いかに社会が変化しようと、自分で課題を見つけ、自ら学び、自ら考え、主体的に判断し、行動し、よりよく問題を解決する資質や能力であり、また自らを律しつつ、他人とも協調し、他人を思いやる心や感動する心など、豊かな人間性であると考える。たくましく生きるための健康や体力が不可欠であることは言うまでもない。こうした資質や能力を、変化の激しいこれからの社会を『生きる力』と称することとし、これらをバランスよく育んでいくことが重要であると考える」と述べたことから、教育の新たな目的の一つとして挙げられるようになり、この理念の下に2002年の学習指導要領の改訂には、総合的な学習の時間も創設されたのです。 しかし、この「ゆとりの中で特色のある教育によって生きる力を育む」という方針の結果が出るまでもなく、表面的な出来事や数値だけで、土曜日授業が再開されようとしているのです。21世紀を担う子どもたちをどう育てたいのかという明確なビジョンがあるとは到底思えません。 私は、国家は教育によって成り立ち、成長、発展するものだと思います。子どもたちと、この国の行く末がとても心配です。 |
園長 遠山 和良 |
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