えんちょうのへや |
『母性』 |
せいし通信 7月号 |
哺乳類動物は母乳がなければ生きていけないので、生まれた直後から母乳をくれる母親が「なにものにも代え難い存在」になります。さらに人間は「10ヶ月の早産」などといわれるように、他の多くの哺乳類動物が、生後数時間で自分の足で立ち上がり、母親の乳を飲めるようになるのに比較して、まだ母親の胎内にいるほうがよいような状態で生まれてきますので、母親とは別な個体になっても、生後1年間は心身ともに母親と一心同体の状況が不可欠です。 この「絶対的な依存の対象である母親」という刷り込みが私たち人間にはあるので、世界中の言語で「大切なもの、恵みを与えてくれるもの」には自然に「母」という枕詞をつけるようになりました。 国や学校には「母国」「母校」、人間の生活に必要なものを生み出してくれる大地(地球)には、母なる大地(地球)、英語ではそれぞれ、mother country, alma mater(ラテン語から転用)、mother earth というようにです。 さて、子どもは生後おなかが空いた、オムツを替えて欲しい(現在は高性能の紙おむつが登場してこの欲求は減り、オムツが取れる時期が遅くなるという弊害が生じている)、抱っこして欲しいなどという欲求を、すべて「泣く」という表現で母親に伝えます。母親は泣いている子どものそれぞれの要求に適切に応じることで、子どもは満足感や母親に対する信頼感を覚えます。そして子どもは、その過程の中で母親とのコミュニケーション(やがては言語の獲得にもつながる)や表現方法を学んでいくのです。この「学習の積み重ね」には、愛情と信頼を基本とした初期の母子関係が欠かせません。社会生活を営む人間にとってもっとも大切な能力の一つは「自分を表現すること」と、それにより生じる「対人関係」です。それが、この乳児期の母子関係の中で基礎が作られるのです。 こうして子どもたちは、その大切な乳幼児期を過ごしていくのですが、母親にとっては、いつまでも子どもを自分の手元に置いておきたいという欲求と、子ども自身は自立したいという欲求がぶつかる時期がやってきます。この時期はちょうど幼稚園の時期と重なるのですが、その時期に上手に子どもの自立の道筋を親が示せるかが、子どもたちの成長発達に重要な意味をもってきます。子どもが求める前から、子どもの欲求を満たしてしまう親の過干渉などは、結果的に子どもの自立の妨げとなるので避けなければなりません。 また現在は高学歴化社会が進み、いわゆる「立派な子」に育てるために、感性や知性とは無縁の知識偏重の教育が盛んになると、子どもたちが自分の感覚を大切にすることや、自分の興味関心や欲求を表現すること、さらにその先にある知的な意欲を喪失してしまう危険性さえあります。 母親は強い子どもとの絆があり、また必要とされていますが、その絆は手綱と同じように、締めすぎても弛めすぎてもいけないのです。親子関係、特に母子関係は、子どもが生まれて数年間は濃密な関係が望まれます。その中で、少しずつ子どもの成長や発達に従って、子どもたちが上手に親の手を離れて、自分の世界へ飛び立つ日を目指すことが必要であり、また重要なのです。 |
園長 遠山 和良 |
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