えんちょうのへや |
『よい子?』 |
せいし通信 2月号 |
数年前に、日本、アメリカ、カナダの研究者が協力して、幼稚園・保育所に通う幼児の社会性に関する比較調査が行なわれました。2〜5才の200人の子どもたちを対象に、担当の教師・保育士をとおして、子どもたちの攻撃性・社会性・不安の程度を評定して、その結果を比較したのです。 攻撃性については「ちょっとしたことでイラつく」などの10項目を「全く見られない」から「常に見られる」までの尺度で判定。社会性については「他の子どもと対立する場面でうまく解決策を見出す」などの10項目。不安傾向については「引っ込み思案で他の子どもが話している中に入れない」などの10項目です。 その結果を見ると、アメリカとカナダの間では、ほとんど差が見られなかったものの、その両国と比べると、日本の園児は攻撃性と不安度が格段に低いという結果が出たというのです。もう一つの社会性についての程度は変わりません。つまり日本の子どもたちは、社会性についてはアメリカ、カナダと同程度なのですが、攻撃性と不安のレベルは低く抑えられていることが判ったのです。 日本では家庭で、そして幼稚園でも幼児期から「他人への思いやり」や「素直さ」を、意識するしないに関わらず教え込まれて育ちます。それに対して欧米では、イニシアチブをとることの重要性や自分が自分らしくあることの大切さを教育します。つまり日本では、他人との協調や、他人への共感のための能力を培うことが重視されるのに対して、欧米では個人としての自立を目標として教育されているのです。 ですからアメリカで報告されていた「母親も働いている家庭の子どもは、専業主婦の母親に育てられた場合より攻撃性が高い」という現象は、日本ではさほど目にすることはありません。多少荒っぽい子は目に付きますが、押しなべて日本の子どもたちは「よい子」ばかりなのです。しかし「よい子」ばかりと手放しで喜んでいいものでしょうか? 欧米では、個人としての自立の志向が強いので、子どもの成長と共に家庭内での親子の対立が起こります。親の思うように子どもを支配しようとする力と、親の束縛から逃れようとする力がぶつかります。しかし、その葛藤をくぐり抜けて始めて人間として、そして社会人として自立できるようになるのです。 一方、日本に目を向けると、この欧米で見られる親子の対立は起こりにくいのが現状です。親と子が、いつまでたっても家庭というカプセルの中で、ぬくぬくと暮らしてしまい、子どもの自立が促されることがありません。その結果、子どもが思春期に差し掛かって、挫折やストレスに遭遇すると引きこもりを起こしてしまうこともみられます。 子どもにいやな思いやつらい思いをさせたくないという、親としての心情は理解できますが、それを乗り越える術を身につけることができなければ、この「よい子」は、いつまでたっても、ひ弱な「よい子」のままなのです。 |
園長 遠山 和良 |
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