子どもは、体育館などの広い室内や園庭に出るとほとんどといってよいほど走りだします。勿論目的があって走り出す場合もあるのですが、走ること自体が目的で走る場合が多いのです。

　子どもは８カ月頃からハイハイやつかまり立ち、1才前後で独り歩きや方向転換ができるようになります。こうした動きは運動感覚（筋肉や関節のコントロール、自分の体の大きさや位置を知る動き）と平衡感覚（体の傾き、また前後左右上下や回転などの動きを感じる働き）を鍛えることになります。この二つの感覚が育つにつれて、子どもはより複雑な動きができるように成長していきます。

　走る動作は両足が地面から離れなければならないので、地面を強く蹴る動作が必要になります。歩いている時よりも筋肉や骨への刺激が強く、蹴って前へ進んだ後の着地のバランスも必要になります。さらに足の裏から伝わる地面の感覚やスピードと距離の感覚など、あらゆる感覚に刺激が加わるので、走れば走るほど経験値が上がることになります。ですから、子どもがむやみに走り回るのは、自身の成長を求めているからともいえるのです。

　直立二足歩行・走行ができるのは、ヒト(人間)だけです。400～500万年程前に直立二足歩行を始めた人類の祖先は、頭部が直立した胴体の真上に位置することで、身体に対して巨大な頭部を支えることが可能になり、そしてヒトの体重に比較しての頭部の重量は、全動物の中で最大となりました。結果として、頭部には巨大な脳容積が得られることになり、全動物中で最も高度な知能を獲得することができたのです。そして腕が歩行から解放されたことにより、重量物の持ち運びが容易になり、直立したことで遠くまで見渡すことが可能になりました。

　外見上、二足歩行をしているように見えるペンギンですが、これは体の厚みのためにそう見えるだけで、実際にはペンギンの大腿骨は脊椎に対してほぼ直角で、下腿骨だけが垂直となっている(つまり常にひざを曲げた状態)ため、実際には直立二足歩行ではありません。他に、常時二足歩行を行う動物には鳥類やカンガルー、一時的な二足歩行のイヌやクマやサルなどがありますが、そのいずれも骨盤と大腿骨の構造上、大腿骨を脊椎に対して垂直に立てることはできず(無理にやれば脱臼してしまう)直立二足歩行とはいえません。

　直立二足歩行を手に入れた人間ですが、その二足歩行にも欠点はあります。重い頭部が高い位置にあることでバランスが悪く転倒しやすいこと(とくに子どもはそうですね)。

喉、心臓、腹部など急所が多い胴部全面が常に晒されていること。内臓を保持するために骨盤底を発達させなければならなかったが、そのため出産に困難が伴い、胎児を小さく未熟な状態で出産しなければならないことなどです。また高齢化による、二足歩行の疲労現象ともいえる椎間板ヘルニアなどの機能障害があげられます。

　人類は直立二足歩行により脳や手が進化して生物界の頂点に立ち、文明という便利で巨大な財産を手に入れました。しかし、直立二足歩行の歴史と経験は、四足歩行時代の長さから見れば極めて短く、人類が十分に適応しているとは思えないともいわれています。

毎日元気に走り回っている子どもたちは、この先人類をどのように進化させていくのでしょうか。