せいし 幼稚園
 
 えんちょうのへや
 
 
子どもたちは いま ・ ・ ・
 
 『人間は狼になれる
せいし通信 10月号

 

1920年、インドで狼と一緒に暮らしている怪物がいる、という噂を耳にしたシング牧師は、現地で狼の巣穴に母狼と子狼5匹と共に住んでいた、人間の子ども二人を保護しました。その時に母狼は猟師に撃たれ、子狼たちは見世物小屋に引き取られていきました。

2人の子どもは、シング牧師に引き取られ、ミドナプルの孤児院で生活することになりました。カマラとアマラと名付けられた、この推定7歳と1.6歳の少女は、こうして人間の世界に連れもどされたのです。

 孤児院に着いた当時は、二人の髪は伸び放題で塊となり、狼そっくりのうなり声をあげ、四足で走り回り、食べ物は地面に置かれた生肉しか口にしません。昼間は部屋の片隅でぼんやりしているのですが、日没とともに目が輝きだして落ち着きなく歩きまわり、殆ど正確に、夜の10時と1時、そして3時に狼そっくりの遠吠えの声をあげて、人々を恐れさせたということです。

 小さいアマラは、人間社会に適応できずに、孤児院に来て1年程でその短い生涯を閉じてしまうのですが、カマラは、両足で立って2才児ほどには歩けるようになり、さらに言葉も45語ほどは覚えて、テーブルについて食事ができるまでになりましたが、1929年、17歳でその生涯を終えました。

 子どもたちは日々成長していますが、その子どもたちの成長発達のメカニズムは、発達の基本である神経発達が、子どもの年齢に応じて機能を獲得していく過程にあります。機能とは、言葉を話す、歩く、また社会性の芽生えなどの精神運動発達を意味します。

そして、その神経発達に応じて、子どもが、その子どもを取り巻く環境の中で学習をして、必要な機能を獲得していくのが発達の基本ということになります。それに加え、人間の場合は環境が重要であり、人間が人間社会で子どもを育てないと人間らしく育たない、というのも一つの基本です。ちなみに、人間の発達の臨界期(その時期までに獲得されなければ、それ以降の獲得は望めないとされる時期)は、例えば視覚は4歳まで(つまり4才までに物の形の認識などがされなければ、それ以降には獲得されない)、言語の獲得の臨界期は8歳くらいまでとされています。 

 狼に育てられたかマラが、結局言葉の獲得ができず人間社会に順応できなかったのも、7歳の年齢までの一番重要な時期に、その神経発達が人間社会の中で行われなかったこと、このことがカマラの最大の悲劇だったのです。 もっとも母狼を殺されて、否応なしに人間社会に連れもどされて、人間としての教育を受けさせられ、人間として生きることを強制されたことが、カマラにとって幸せだったかどうなのかは知る由もありません。

 園長   遠山 和良
 
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