たいちょうのへや |
『教える?学ぶ?』 |
せいし通信 11月号 |
「最後の宮大工」「法隆寺の鬼」といわれた伝説の棟梁西岡常一氏のカンナの削り屑は向こうが透けて見えました。60年程前、高校の修学旅行で法隆寺を見て感激して、西岡常一氏の唯一の弟子となった小川三夫さんは、西岡さんから「カンナはこういう削り屑が出るようにやれ」とだけ言われて、それを窓に貼って見本として1年間練習したのだそうです。小川さんはいいます。「まず体から入るのが職人だ。頭から入ってはいけない。大学では体が出来ていないから疲れる。疲れるから頭で考えようとする。効率のいい方法探すわけだ。しかし、それで早く上達したとしても、10年後には一段一段上がってきた人間に抜かれる」 企業は即戦力を求めて成績優秀な人材を採用しようとしますが、この小川三夫さんが経営する工房では、早大生と中学生が入門を希望してきた時に、中学生を採用したのだそうです。大学生はよそでもやっていける能力があるが、その能力自体が邪魔になる。逃げ場のある人間は修行に耐えられない、との判断からでした。一方、世間をまだ知らない中学生は、首までどっぷり大工の生活に浸かって、いわれたことを一生懸命、素直に身に付ける。しかし5~6年も経つと棟梁のちょっとしたアドバイスだけで10倍にも100倍にも伸びる時期が来るのだそうです。 宮大工の基本は教えないこと。必要なのは本人が悟ること。身体の記憶として自分で身に付けること。作業で分からないことがあっても、悩み抜いた末での質問でなければ、答えを深く聞くことができない。“教えない”というのは単に教えない訳ではない。学ぼうという雰囲気がある中で放っておくことだ。実は教える側も教えてしまった方が目先は楽だ。教えないのは忍耐がいる。教えれば30分でできることが、放っておけば2日も3日もかかる。でも教えてしまったら、弟子は教えられた範囲のことしかできなくなる。またそれ以上を目指そうとも思わなくなる。と小川さんは語ります。 この宮大工の世界と幼児教育の世界には大きな共通点があります。まず教えないということ。幼稚園では、もちろん生命的なことに係わる生活技能は教える必要はありますが、基本は子どもたちが夢中になって取り組める(遊べる)活動の場(環境)を提供し、子どもたち自身の自由な発想や想像力を駆使して、自らを成長させていく(学ぶ)こと。そして教師はそれを最も良い方向に導く手助けをすることが、幼児教育最大の役割だということ。 もう一つは、幼稚園の教育も“待つ”教育だということです。時間がかかるからといって、親や教師が先回りして教えたり、手を貸してしまうと、子どもたちは自分でやる意欲をなくしてしまったり、指示がないと自分から行動しようとしない子どもになりかねません。教えないことや待つことには忍耐がいるし、時間がかかるのですが、子どもが自分の力でできたときの喜びや達成感、またその過程で身に付けることができたものを考えれば、待つことや教えたりしないことがもたらすものは大きいのです。もちろん教師は、この宮大工の棟梁のように、子どもたちにとっては教師自身が子どもたちにとっての教科書であるように努力しなければならないのは当然のことです。 幼児教育が、この大工の徒弟制度と類似した教育に思えるのは、徒弟制度が踏襲される業種や現場では、ものづくりの肝心な点はマニュアルや言葉では伝わらないということです。幼稚園は人生で一番大事な「人づくり」の時期なのですから、そこには最高の教師と呼ばれる棟梁と作業現場(教育環境)が用意されなければならないのです。 |
理事長 遠山 和良 |
せいし通信 バックナンバー |
平成23年度 2011年 |
5月号 6月号 7月号 夏休み号 9月号 10月号 11月号 12月号 |
冬休み号 1月号 作品展特集号 2月号 3月号 春休み号 |
平成24年度 2012年 |
5月号 6月号 7月号 夏休み号 9月号 10月号 11月号 12月号 |
冬休み号 1月号 2月号 3月号 春休み号 |
平成25年度 2013年 |
5月号 6月号 7月号 夏休み号 9月号 10月号 11月号 12月号 |
冬休み号 1月号 2月号 3月号 春休み号 |
平成26年度 2014年 |
5月号 6月号 7月号 夏休み号 9月号 10月号 11月号 12月号 |
冬休み号 1月号 2月号 3月号 |
平成27年度 2015年 |
5月号 6月号 7月号 夏休み号 9月号 10月号 11月号 12月号 |
冬休み号 1月号 2月号 3月号 春休み号 |
平成28年度 2016年 |
5月号 6月号 7月号 夏休み号 9月号 10月号 11月号 12月号 |
1月号 2月号 3月号 春休み号 |
平成29年度 2017年 |
5月号 6月号 7月号 夏休み号 9月号 10月号 11月号 12月号 |
1月号 2月号 3月号 春休み号 |
平成30年度 2018年 |
5月号 6月号 7月号 夏休み号 9月号 10月号 11月号 12月号 |
1月号 2月号 3月号 春休み号 |
令和元年度 2019年 |
5月号 6月号 7月号 夏休み号 9月号 10月号 11月号 12月号 |
1月号 2月号 3月号 春休み号 |
令和2年度 2020年 |
5月号 6月号 7月号 夏休み号 9月号 10月号 11月号 12月号 |
1月号 2月号 3月号 春休み号 |
令和3年度 2021年 |
5月号 6月号 7月号 夏休み号 9月号 10月号 11月号 12月号 |
1月号 2月号 3月号 春休み号 |
令和4年度 2022年 |
5月号 6月号 7月号 夏休み号 9月号 10月号 11月号 12月号 |
1月号 2月号 3月号 春休み号 |
令和5年度 2023年 |
5月号 6月号 7月号 夏休み号 9月号 10月号 |
seishi@kumin.ne.jp
学校法人 聖使学園 認定こども園
せいし幼稚園・せいしキディクラブ
〒830-0023 福岡県久留米市中央町30-5
TEL:0942-32-4971 FAX:0942-32-7678