刑法ⅡB 補助プリント(No. 14)盗品関与罪②
-No.13から続く
3 犯罪類型
1項、2項に規定された行為類型に共通する要素は、被害者の追求権を侵害し、回復を困難にすることである。したがって、各犯罪が成立するためには、盗品の占有において現実的な移転が必要である(山口)。なお、各犯罪が成立するためには、客体が盗品であることの認識が必要であるが【事例8】、前提犯罪の内容を知る必要はない【事例9】。
【事例8】最判昭和23・3・16刑集2・3・227
<判旨>「しかし賍物故買罪は賍物であることを知りながらこれを買受けることによって成立するものであるがその故意が成立する為めには必ずしも買受くべき物が賍物であることを確定的に知って居ることを必要としない或は賍物であるかも知れないと思いながらしかも敢てこれを買受ける意思(いわゆる未必の故意)があれば足りるものと解すべきである故にたとえ買受人が売渡人から賍物であることを明に告げられた事実が無くても苟くも買受物品の性質,数量,売渡人の属性,態度等諸般の事情から「或は賍物ではないか」との疑を持ちながらこれを買受けた事実が認められれば賍物故買罪が成立するものと見て差支ない。」
【事例9】最判昭和30・9・16
<判旨>「賍物故買罪は、故買者にその物が財産罪によって領得されたものであることの認識があれば足り,所論のように,それが何人の如何なる犯行によって得られたかというような本犯の具体的事実までも知る必要はない。されば,原判決は賍物故買罪の判示として欠けるところはないものというべく,違憲の論旨はその前提を欠き,上告適法の理由に当らない。」
(1) 無償譲受け罪
無償で盗品等の交付を受け取得することである。盗品であることの認識が必要である。一時的に借用したような場合は含まない【事例10】。
【事例10】福岡高判昭和28・9・8高刑集6・9・1256
<判旨>「賍物収受の罪は賍物であることの情を知りながら之を無償で収得すること例えばその情を知りながら賍物の贈与を受け又は無利息消費貸借によって借受ける場合のように無償でその所有権を取得することによって成立し,単に一時使用の目的で借受けるが如きは,賍物寄蔵の罪となることはあつても,賍物収受の罪とならないことは,所論の正当に指摘するとおりである。」
(2) 運搬罪
運搬とは,委託を受けて盗品の所在を移転させることである。有償・無償を問わず,移転も,被害者の追及を困難にしたことで足る【事例11】。被害者の追求権を中心に考えるべきであるから,被害者に盗品の買戻しを依頼された者が盗品を被害者のもとに運搬する場合であっても,被害者の追求権を侵害するかぎり盗品運搬罪は成立する【事例12】。
【事例11】最判昭和33・10・24刑集12・14・3368
<判旨>「被告人は昭和25年2月8日早朝Kほか1名に頼まれ同人らがその頃他から窃取して来た衣類等在中の風呂敷包2個をその賍物であることの情を知りながら鎌倉市XX番地Y方附近から同人宅四畳半の押入までの間運んでやったというのであるから,賍品の場所的移転はあるのであり,たとえその運んだ距離にさほど遠くないものがあるといえ,被告人は本件賍品の隠匿に加功し,被害者の該賍品に対する権利の実行を困難ならしめたものということができる。」
【事例12】最決昭和27・7・10刑集6・7・876
<決定要旨>「原判決は,結局証拠に基き被告人Ⅹ並びに原審相被告人Y等の本件贓物の運搬は被害者のためになしたものではなく,窃盗犯人の利益のためにその領得を継受して贓物の所在を移転したものであって,これによって被害者をして該贓物の正常なる回復を全く困難ならしめたものであると認定判示して贓物運搬罪の成立を肯定したものであるから,何等所論判例と相反する判断をしていない。」
(3) 保管罪
保管とは、委託を受けて盗品を管理することである。有償・無償を問わない。盗品であることを知らずに保管をした者が、それを知った後も保管を続けた場合、保管罪は成立する。学説では、占有移転によって追求権が侵害されるわけだから、その時点での盗品性の認識が必要であり、保管罪は成立しないと考える立場が強い(平野,曽根,前田,山口)。
(4) 有償譲受け罪
有償譲受けとは,その盗品であることを知りながら,金銭その他の物件を対価として,盗品の処分権を取得することをいう。
(5) 有償処分のあっせん罪
有償処分のあっせんとは,有償処分の仲介のことであり,判例は仲介媒介行為があれば本罪の成立を認め【事例15】,仲介に関する有償・無償を問わない。これに対しては,学説では批判が多く,有償処分に関する契約の成立を要求する立場(大塚,大谷),盗品の現実の移転を要求する立場(曽根,西田,山口)などがある。なお,本罪は被害者を相手にしても成立する【事例16】。この場合,どこに追求権(法益)侵害があるのかという批判もあるが(山口),妥当な結論だといえる。
【事例15】最判昭和25・8・9刑集4・8・1556
<判旨>「牙保行為は原判決挙示の証拠によって優に認定できるのである。又牙保は贓物の処分行為の媒介周旋をすれば足り,そのため利益を伴うことを要するものではない。」
【事例16】最決平成14・7・1刑集56・6・265
<決定要旨>「なお,所論にかんがみ,職権で判断するに,盗品等の有償の処分のあっせんをする行為は,窃盗等の被害者を処分の相手方とする場合であっても,被害者による盗品等の正常な回復を困難にするばかりでなく,窃盗等の犯罪を助長し誘発するおそれのある行為であるから,刑法256条2項にいう盗品等の「有償の処分のあっせん」に当たると解するのが相当である。」
4 他罪との関係
(1) 罪数関係
同一の盗品につき複数の盗品等関与罪が行われた場合,包括1罪になる。しかし,保管した盗品を一旦返還した後,有償処分のあっせんをした場合には,保管罪と有償処分あっせん罪の併合罪となる【事例17】。また,盗品等を無償・有償で譲受けた者がそれを運搬・保管しても,運搬罪・保管罪にはならず,無償譲受け罪あるいは有償譲受け罪が成立するだけである【事例18】。
【事例17】最判昭和25・3・24刑集4・3・407
<判旨>「原判決挙示の証拠に依れば,被告人は始めT外1名から明日取りに来るから預かって呉れとの依頼により,贓物たるの情を知り乍ら敢てタイヤー一本を預かり,その翌日頃右T等は,トラツクをもって取りに来たのでこれを同人等に渡したところ,Tは之をトラツクの運転手に売ろうとしたが運転手は買わなかったので,被告人はT等から売って呉れと頼まれて之が売却を周旋したというのであるから被告人がT等から贓物と知りながら判示タイヤー一本を預ったことにより贓物寄蔵罪は成立し,翌日頃之をT等に引渡したことにより贓物寄蔵罪の状態は終了し,更にT等の依頼により右タイヤー一本の売却方を周旋したのであるから,被告人の贓物牙保罪は前記贓物寄蔵罪とは全然別個独立に成立したものといわなければならない。即ち本件は始めから売却の周旋を依頼された為に預かったものではないのであるから,仮令右両所為の日時が近接連続していたとしても,所論のように本件寄蔵の所為は当然牙保の所為に吸収されるものであるとの主張は採用することができない。それ故原判決には何等所論のような違法はなく,論旨は理由がない。」
【事例18】最判昭和24・10・1刑集3・10・1629
<判旨>「……従犯は他人の犯罪に加功する意思をもつて,有形,無形の方法によりこれを幇助し,他人の犯罪を容易ならしむるものであって,自ら,当該犯罪行為,それ自体を実行するものでない点においては,教唆と異るところはないのである,しかして,自ら強窃盗を実行するものについては,その窃取した財物に関して,重ねて賍物罪の成立を認めることのできないことは疑のないところであるけれども,従犯は前に述べたごとく自ら強窃盗の行為を実行するものではないのであるから,本件におけるがごとく,強盗の幇助をした者が正犯の盗取した財物を,その賍物たるの情を知りながら買受けた場合においては,教唆の場合と同じく従犯について賍物故買の罪は成立するものとみとめなければならない。従ってこの点に関する所論の見解はこれを採用することができない。たゞ原判決はその判示第3の事実において,被告人が,その故買にかかる賍物を他に運搬した事実を認定し,これに対して刑法第256条第2項の規定を適用していることは原判文上明らかであるが,同一人が既に故買した物件を他に運搬するがごときは,犯罪に因て得たものの事後処分たるに過ぎないのであって,刑法はかゝる行為をも同法第256条第2項によって処罰する法意でないことはあきらかである。しからば原判決は罪とならない行為を罪として処断した違法があるものと云わなければならない。この点において論旨は理由あり,原判決は刑訴施行法第2条旧刑訴第447条により破毀を免れないものである。」
(2) 本犯との関係
本犯である財産犯の犯人については,盗品等関与罪は成立しない。本犯の共同正犯についても同じである。ただし,狭義の共犯(教唆・幇助)については,盗品等関与罪の成立は可能である。その場合,本犯の共犯とは,併合罪になる。
(3) 親族等の間の犯罪に関する特例
刑法257条の特例と刑法244条の特例との関係が問題になる。基本的には,両者は趣旨を異にすると考えるべきであり,盗品等関与罪の犯人庇護的側面を考慮し,親族関係は本犯の犯人と盗品等関与罪の犯人との間に存在することが必要である。このような人的関係に基く期待可能性の減少に,つまり責任の減少に根拠があるというべきである。しかし,こう解するのが正しければ,盗品等関与罪の犯人相互間に親族関係がある場合にも,本特例の適用が認められるべきである。