第13回目

刑法ⅡB 補助プリント(No. 13)盗品関与罪①

1 犯罪類型と罪質
(1) 犯罪類型
 盗品等に関する罪は,256条が規定する。「盗品(旧・贓物)その他財産に対する罪に当たる行為によって領得された物」の「無償譲り受け」が基本類型である(1項)。その物の「運搬」「保管(旧・寄蔵)」「有償譲り受け(旧・故買)」「有償処分あっせん(旧・牙保)」が加重類型である(2項)。
(2)罪質
 上記のような行為が犯罪とされる理由は,犯罪被害者が当然もっている盗品等に対する追求権(回復請求権)の侵害にある(追求権説)。判例もこの立場に立つ【事例1】。ただし,上記の犯罪には,本犯を助長促進し誘発する性格があり【事例2】,また盗品処分に関与する利益関与的性格も指摘される(山口)。
 基本的には,追求権説が妥当であるが,財産犯によって生じた違法な財産状態の維持に処罰根拠を求める学説もある(前田)。また,財産領得罪を禁止している刑法規範の実効性を法益とする学説もある(井田)。いずれも盗品等関与罪の財産犯的性格を空虚にするものであるという批判(山口)が正当である。
【事例1】最決昭和34・2・9刑集13・1・76頁
<事実>原審(高裁)は次のとおり事実認定して贓物牙保罪の成立を認めた。「贓物に関する罪は財産権の保護を目的とするものであるから,贓物はその被害者が法律上これを追求し得るものであることを要するは言をまたない。従って被害者がこれを追求回復する権利を有しない場合又はその権利を喪失した後においては最早贓物とはいえないわけであるから,民法第192条の規定によって第三者が所有権を取得した後は当然に贓物性は失われる(中断ではない)。しかし同法第193条によると,盗品については,所有者は盗難の時より2年間占有者に対しその物の回復を請求する権利があることを規定しているので,たとえ第三者が善意にこれを取得したとしても,それが窃取のときから2年内であるならば,所論のように直に贓物たるの性質を失うものではない。これを本件について見るに,Cの被害届書(謄本)の記載によると,原判示の反物は昭和30年1月7日頃盗難にかかったことが認められるのであるから,たとえAが所論のように善意にこれを取得したとしても,本件の犯行はその数日後に行われたものであって,未だその贓物性の失われていないことば明らかである。従ってそれが盗品であることの情を知りながら,その売却の斡旋をした被告人は贓物牙保の罪責を免れることはできない。」
<決定要旨>「贓物に関する罪は,被害者の財産権の保護を目的とするものであり,被害者が民法の規定によりその物の回復を請求する権利を失わない以上,その物につき贓物罪の成立することあるは原判示のとおりである。」
【事例2】最判26・1・30刑集5・1・117
<判旨>「……論旨は賍物牙保罪は賍物に対する被害者の返還請求権の行使を不能,又は困難ならしめるおそれのある犯罪であると前提し被告人の無罪を主張するのであるが,賍物に関する罪を一概に所論の如く被害者の返還請求権に対する罪とのみ狭く解するのは妥当でない,(法が賍物牙保を罰するのはこれにより被害者の返還請求権の行使を困難ならしめるばかりでなく,一般に強窃盗の如き犯罪を助成し誘発せしめる危険があるからである),従って原判決が判示事実を以て賍物牙保罪は成立すると判断したことは正当であって,所論の如き違法はなく論旨は理由がない。」

2 客体への追求権
(1)客体 
本罪の客体は「盗品その他財産に対する罪に当たる行為によって領得された物」であるが,被害者が法律上追求できる物に限られる。不動産も含む。権利は含まれないが,権利を化体した証券は含まれる。秘密書類を持ち出してコピーし,原本を戻した後,コピーを売却しても,そのコピーは会社の所有物ではなく,したがって追求権がないから,盗品等関与罪の客体にはならない(山口)。なお本犯行為は構成要件に該当し違法な行為であれば足りる。したがって刑事未成年者が窃取した財物も本罪の客体となる。また,特例により刑が免除されている場合も本罪の客体でありうるし【事例3】【事例4】,わが国の裁判権に服しない占領軍軍人がわが国で窃取した占領軍物資も本罪の客体でありうる。なお将来窃取すべき物は本罪の客体ではない【事例5】。
【事例3】最判昭和25・12・12刑集4・12・25
<判旨>「刑法244条は、同条所定の者の間において行われた窃盗罪及びその未遂罪に関しその犯人の処罰につき特例を設けたに過ぎないのであって、その犯罪の成立を否定したものではないから、右窃盗罪によって奪取された物は賍物たる性質を失わない。」
【事例4】最決昭和38・11・8刑集17・11・2357
<決定要旨>「なお刑法二五七条一項は、本犯と賍物に関する犯人との間に同条項所定の関係がある場合に、賍物に関する犯人の刑を免除する旨を規定したものであるから、原判決が、たとい賍物に関する犯人相互の間に右所定の配偶者たる関係があってもその刑を免除すべきでない旨を判示したのは正当である。」
【事例5】最決昭和35・12・13刑集14・13・1929
<決定要旨>「(窃盗罪の実行を決意した者の依頼に応じて同人が将来窃取すべき物の売却を周旋しても、窃盗幇助罪の成立することあるは格別、賍物牙保罪は成立しないが、その後同人が窃取してきた賍物について情を知りながら現実に売却の周旋をした場合には、賍物牙保罪が成立することはいうまでもない。)」
(2)追求権の限界
 本罪の保護法益が追求権である以上,追求権がなくなれば,本罪の客体にはならない。以下,追求権が問題となるケースを挙げる。
① 善意取得
 盗品であっても,第三者により善意取得(民法192条)されれば,被害者の追求権はなくなるので,盗品性もなくなる。ただし,2年間は占有回復請求権があるから,その間,盗品性はある【事例6】。
【事例6】最決昭和34・2・9刑集13・1・76
<決定要旨>「(贓物に関する罪は,被害者の財産権の保護を目的とするものであり,被害者が民法の規定によりその物の回復を請求する権利を失わない以上,その物につき贓物罪の成立することあるは原判示のとおりである。)」
② 加工
 加工により加工者が所有権を得る場合にも(民法246条),被害者の追求権は失われ,盗品性は失われる。盗品である自転車のサドルを他の自転車に取り付けたケースでは盗品性が肯定されている【事例7】。
【事例7】最判昭和24・10・20刑集3・10・1660
<判旨>「原判決は,被告人がAなる当時16年の少年が窃取して来た中古婦人用26吋自転車1台の車輪2個(タイヤーチウブ附)及び『サドル』を取外しこれらを同人の持参した男子用自転車の車体に組替え取付けて男子用に変更せしめてこれをBに代金4000円にて売却する斡旋をして贓物の牙保をしたものと認定判示したもので,要するに他人所有の婦人用自転車の車輪2個及び『サドル』を贓物と認めこれを牙保したものと判断したものであること明白である。そして,右原判決の事実認定は,その挙示の証拠により肯諾することができる。且つその認定によれば判示のごとく組替え取付けて男子用に変更したからといって両者は原形のまま容易に分離し得ること明らかであるから,これを以て両者が分離することのできない状態において附合したともいえないし,また,もとより所論のように婦人用自転車の車輪及び『サドル』を用いてAの男子用自転車の車体に工作を加えたものともいうことはできない。されば中古婦人用自転車の所有者たる窃盗の被害者は,依然としてその車輪及び『サドル』に対する所有権を失うべき理由はなく,従って,その贓物性を有するものであること明白であるから,原判決には所論の違法は認められない。」
③ 不法原因給付
 不法原因給付物については,まず本犯の成否が問われる。委託物横領罪・詐欺罪・恐喝罪について,犯罪の成立が認められるのであれば,いずれの場合も盗品性が肯定される(前田)。これに対して,委託物横領罪について,犯罪の成立を否定するのであれば,詐欺罪・恐喝罪については盗品性を肯定しても,委託物横領罪では盗品性が否定される(中森)。また委託物横領罪・詐欺罪・恐喝罪の成否とは別に,盗品性を否定する見解がある(曽根)。