自然薯の話(1995年社内報より)
「体を動かす事が好き」「人のいない所が好き」「食べる事が好き」。そう、私の趣味はこの三つの条件を満たすアウトドアだ。
家から目と鼻の先に九州一の大河である筑後川が流れ、また車で10分で丘陵地帯という地の利に恵まれ、少年のころは釣りが日課で、手長エビ、ウナギ、ハヤ、サヨリ等を釣っていた。このころは上流でアユを釣るのが夢だったが、20代、30代は仕事や結婚、子育て等に追われ、40代に入り子供達が親離れの年齢に達してやっと現実のものとなった。
もう一つは、職場の先輩から教わった山芋掘りで、これは20年近く休日の日課となっている。5月から10月はアユ釣り、10月から3月は山芋掘りで、オフは自主トレと家族は一年中アウトドアウイドゥだ。

今回は社内でも評判の山芋掘りを紹介しよう。
毎年、秋の運動会の時期が山芋掘りの始まりとなるが、この時期は腹一杯に卵を詰めた落ちアユ釣りの最盛期と重なる。後ろ髪を引かれるが、出遅れると他人に掘られてしまう。「先んずれば人を制す」と、踏ん切りをつけてのシーズンインだ。またこれより早いと芋が未熟であり、やぶ蚊や暑さにも悩まされる。
今まで、その美味につられて多くの弟子が入門したが、残念ながら続いた者はいない。中には薮を見ただけで拒否反応を起こした人(この御仁は海へ行った時も留守番と称して甲羅干しで、私は黙々とサザエ採り)もいたが、何と言っても続かない理由は、顔にクモの巣、引っ掻き傷に泥汚れ、手はガサガサとほとんど三K世界だからだろう。(風呂に入れば済むのに(ーー;))
掘る事は簡単だが、ハングリー精神と反骨精神、執念深さ、体力がないと出来ない。ちなみに私の血液型はオウム真理教がお布施が期待出来ないとするO型で、その新聞記事を読んだ日は親子で大笑い(笑った妻子も全員がO型)したものだ。

   山芋掘りの七つ道具

1. 掘り具  /穴を掘り、土を上げる
2. スコップ /掘った穴を埋める
3. ヘルメット/顔、頭部を守る
4. カップ  /穴の底の土を上げる
5. 鎌    /回りの薮をはらう
6. 鋸    /木の根っこを切る
7. バッグ  /掘った自然薯を収納する
8. その他
長靴、軍手、タオル、手帳、えんぴつ
    
  カンボジア・ダンディ
  の異名をもらった頃
さて、山芋掘りのいで立ちは作業衣に軍手、ヘルメット、首にタオル、長靴、専用のクワ、鎌と日頃のダンディなスタイル?とは程遠い、農夫か現場作業員姿で野山を山芋を求め歩き回る。
私の名人たる所以は、秋から春先まで掘り続けるところだ。山芋は熱帯性の植物で、秋につるが枯れると見つける事は殆ど不可能だ。(猪は匂いで見つけるとかで、前足で掘った跡や糞を見かけます)
一般的には、つるの根元に麦を蒔いておく方法が知られているが、他人にも分かるという欠点がある。
私の方法は秋に葉が枯れ、つるがまだ強い時期に山芋を確認してつるを切り、他人に分からない目印を付け、更に地図を書いておく事だ。その日に食べる分を掘ったら、後はキープの分を捜す。この時期に数多くの山芋を記した地図を残す事が春先まで食べられる秘けつだ。この地図は"別封"に匹敵する価値がある。
山芋は買えば高価な物だが、家族は食べ飽きて"猫またぎ"。行き先は友人、知人だが、中には食べ方が分からず"ミイラ"にする人がいた(多分、奥さんが無精者であろう)ので、最近は調理してあげるようにしている。ここが私の親切さ、執念深さが現われるところだろう。

我が家の食べ方を紹介すると、つるに付いたムカゴは米と混ぜて炊いたムカゴ御飯、山芋はポテトチップスのように切って、かつお節をまぶして醤油かポン酢をかけて食べたり、すりおろして一口大の大きさをノリで包んで揚げる磯辺揚げ。たまには出し汁を加えてとろろ汁にしたりするが、それまでには泥を落とし毛根をむしり取る下ごしらえに時間がかかり女房には不評であり、私の仕事となっている。(我が家の奥様もまた無精者である)

      

ムカゴ御飯
      

スライス(刺身)
      

天ぷら

過去の山芋掘りに関する珍事では、女子中学生のシンナー遊びや冬眠中のカエル(またはガマ)との出会い、木の根っこにピアスを開けられた山芋、横に伸びた山芋(下に石があるわけでもないのに山芋にも変わり者がいるもんだ)。また野兎やキジ、山鳩、アケビ、町なかではめったに見られぬモズの生けにえと、子供の教材に見せたい物が一杯だ。ニワトリの死骸を餌にしたワナも見たが、狙いは何だろうか。
山芋掘りでの注意点は、掘った跡を埋めて置くこと、山芋の首の部分は植えて置くこと、小さいのは掘らない事等である。また山中といえども持ち主のいない山はなく、立ち入り禁止の立て札や柵がある場所には入らないようにしている。荒れ放題の山では掘らせてもらうお礼に薮を切り開いてやるという、自分勝手な理屈で入っているが、全国では現金袋や金庫、死体などが見つかり事件が発覚する事など、世の役に立つこともあり、山菜採りや山芋掘りは季節の"国民的娯楽"として認知されていると言ってもいいだろう。
この山林捜索、森林浴、バードウォッチング等を兼ねた山芋掘りも野山に梅の花が匂うころには掘り尽くす。この時期、七つ道具に剪定バサミも加え、来年も多くの花を付けるように梅の枝を剪定する。そして落とした枝は我が家の玄関を飾る。山芋掘りを終えた短いオフには、河川敷にツクシや菜の花摘みやハヤ釣りに行ったったりして、アユ釣りの解禁日を待つ。この"年二場所"のアウトドアは体が動く限り続けて行きたい。私を忘れる事はあっても、天然アユや自然薯の味は差し上げた人達の記憶に残る事と思います。

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自然薯掘りについては、入門者には個人レッスンしますが、おそらく続かないと思います。3Kに耐える体力、気力の持ち主はそうはいません。